【あの日からの地続き】

南国の激しい雨が去り、遠い我が家で微熱を出した次女のことが頭をよぎりながらも、楽しかった旅はいよいよ最終日の朝を迎えました。非日常のきらめきを名残惜しみつつ、いつもの日常へとゆっくりと時計の針が戻り始める、そんな特別な一日の始まりでした。

【日常の輪郭】

フライトまでのわずかな時間、私たちは旅の締めくくりに大きな商業施設へと足を運びました。そこで見つけた新しいラバーサンダルに目が留まり、私はその場で購入して、履き古した靴からすぐに履き替えました。 「買わない理由を探してる間はな、何も買えんのよ。だから買えないと言う時は買えないのよ」 周囲にそう笑って見せた言葉は、新しい挑戦を前に足踏みしがちな自分自身への、小気味よいエールでもありました。

広い施設を歩きながら、留守番をしている娘たちの顔を思い浮かべます。長女と次女のために、小さな体にぴったりなサイズのお揃いのTシャツと、それぞれの名前のイニシャルである「H」と「A」の形をしたサンダル用の小さなチャーム、そして可愛らしいお花のチャームを選びました。空港で華やかなリゾート会員権の熱心な勧誘を受けましたが、「今はこれ以上の贅沢は要らんよ」とスマートに見送り、飛行機へと乗り込みました。

機内や空港のロビーでも、私のスマートフォンは現実の音を鳴らします。来週の現場の段取りについて、連絡の遅い相手に「なんでこっちが連絡するまで動かんのよ」と少しばかりイライラを覗かせたり、来月以降に予定している住宅のカーポート施工について施主と遠隔で詳細を詰めたり。

空の上にいても、頭の片隅では常に現実のロジスティクスが正確に組み立てられていました。けれど、飛行機が地元の滑走路に着陸した瞬間、私の心を満たしたのは別の予感でした。 「今頃、空港に着いたって連絡したら、パパを迎えに行きたいって賑やかに車に乗り込んで来とるんやろうな」

帰宅し、玄関のドアを開けると、そこには待っていた愛おしい日常の体温が溢れていました。 「パパ、おかえり!」と飛びついてくる娘たちに、買ってきたばかりのお土産を渡します。自分のサンダルにさっそくお花のチャームを付けた私を見て、娘たちが目を丸くする。私は照れくささを隠しながら、優しく微笑みかけました。 「パパの足にお花すいとるやろ(咲いているだろう)?」

その時、楽しそうに跳ね回る長女の足元を見て、ふと気がつきました。彼女が今履いているお気に入りのサンダルの裏が、いつの間にかすっかりすり減ってツルツルになっていたのです。「ああ、パパがいない間も、この子はこんなに一生懸命歩いて、大きくなっていたんだな」。

【その瞬間のきらめき】

未来の私が人生の終わりにこのページを開くとき、南国の美しい海の色よりも、この薄暗い玄関先で見た「娘のすり減ったサンダルの底」に、いちばん深く胸を熱くすることでしょう。 旅先でどれだけ大きなビジネスの絵図を描き、どれだけ自分の名前を心の中で呟いて虚勢を張ってみせても、私の人生の本当の拠り所は、このすり減った靴底に刻まれた、家族のささやかな成長の日々なのだと気づかされました。完璧ではない泥臭い日々の中で、私はこの小さな足跡を守るために生きていたのだと、未来の自分へ温かい手紙を送るような気持ちでここに書き残しておきます。

【明日へのあしあと】

子どもたちがお土産のTシャツを嬉しそうに体に当ててはしゃぐ姿を見つめながら、私は心の中で静かに誓っていました。「近いうちに、この子の足にぴったり合う、新しいとびきりのサンダルを一緒に買いに行こう」と。

明日は月曜日。朝一番には、手配していた大型の車両を引き取りに向かい、現場でのライン引き作業をミリ単位の正確さで立ち会う、シビアな現実の指揮が待っています。さらに、来月はじめに控えた大切なジョイントコンサートに向けた、あと数回しかない貴重な合同練習の段取りも考え始めなければなりません。

旅の魔法は解けたけれど、カバンの中には新しいサンダルの花と、家族の笑顔が詰まっています。 日常に戻る明日も、きっといい日になりそうだ。

それでは、また明日。