【あの日からの地続き】

「誰よりも自分が一番動く」と心に誓い、おばあちゃんの手を引いて病院へ向かったあの静かな朝。誰かを支えるための責任感を胸に抱いて迎えた今日は、自分の身体に向き合う少しシビアな診察室と、子どもたちの溢れんばかりの愛に胸が熱くなる一日となりました。

【日常の輪郭】

朝一番、爽やかな夏空の下でラジオ体操に励む子どもたちの姿。 「パパはな、君たちが一生懸命体を動かしとるのを横で眺めとる方が楽しいんよ」 そう言って目を細める穏やかな時間が、今日の愛おしい始まりでした。

日中は本業の代表として、スタッフたちの個別健康診断の手配をスマートに整え、来春の休日制度の計算をカチッと弾きつつ、自分自身も診察室へ足を運びました。 けれど、画面に映し出された数値を見た医師から飛んできたのは、思わず身が引き締まる愛の猛説教でした。 「思い切って食事の量を2割、3割、いや5割減らしなさい! 薬に頼るんじゃなくて日常を変えないと、体にガタが来ますよ。今度、お腹の精密な検査(CT)を撮りましょう」

その強烈なアドバイスを胸に抱えたまま迎えた夕方、家族で外食を囲んでいたときのことです。 「パパな、今度お腹のシーティー(CT)を撮りにいくことになったんよ」と私が何気なく呟いた瞬間でした。 隣に座っていた幼い子どもが目を大きく見開き、ポロポロと大きな涙をこぼしながら、必死の様相で叫びました。 「心(こころ)を取るなんて、死んじゃう! パパ、心を取らないで!」

「シーティー(CT)」という言葉を、「心(こころ)を取る」と勘違いした、どこまでも純粋な叫び。パパが死んでしまうと本気で心配して泣いてくれるその温かい涙に、私の胸は苦しいほどの愛おしさと感謝でいっぱいになっていました。

夜、我が家に戻り、明日の朝早くから遠足へ向かう息子の準備を二人で整えました。 前夜のうちに作ったお弁当を冷蔵庫へ大切に収め、冷凍庫でカチカチに凍らせた二つの保冷剤とお箸を保冷バッグに詰める作業。体操服をリュックの横に綺麗に揃えながら、子どもの旅立ちを見守るような優しい静寂が台所を包んでいました。

激しい役割の波を一つずつ越えていくたび、私は心の中で自分という人間の名前を、まるで散らかった感情をピシッと整える句読点のように、そっと静かに唱えていました。

医師の強い指導に苦笑いし、会社の制度設計に頭をひねっている代表。けれど同時に、「心を取らないで」と泣いてくれた子の涙に目頭を熱くし、カチカチの保冷剤を大切にお弁当箱へ添えている、ただの愛おしい父親。 心の中のマントラは、どれほど多忙な日々のなかであっても、自分という人間のブレない温かい芯へといつでも戻ってくるための、確かな心のアンカーでした。

【その瞬間のきらめき】

未来の自分が人生の終盤にこのページをめくるとき、あの日どれほど数値の警告に脂汗をかいたかとか、休日制度の具体的な計算なんて、きっと小さな出来事として雲の彼方に消え去っているはずです。 覚えているのはきっと、「心を取らないで」と涙を浮かべてしがみついてくれたあの小さな手のひらの温もりと、明日の遠足のために冷たい保冷剤を詰めた、夜の台所の静けさだけです。自分の体を労わり、ご飯の量を減らしてでも健康で居続けること。それは単に長生きするためではなく、私の「心」をこんなにも愛し、心配してくれる大切な家族の笑顔を、一日でも長く隣で見守り続けるためなのだと。泥臭くても食事と向き合い、生きていく真の理由が、そこには確かにありました。

【明日へのあしあと】

リュックの横に体操服をセットし、すやすやと心地よい寝息を立てる息子の部屋のドアをそっと閉め、静かな夜のリビングで明日のささやかな段取りを整えています。

明日の朝七時十五分、冷蔵庫から冷えたお弁当と保冷剤を取り出し、保冷バッグへカチッと詰めて、元気いっぱいの「いってらっしゃい!」で息子を送り出す大切な任務が待っています。

凍らせた保冷剤の冷たさの奥にある深い温もりを胸に抱いて進む明日は、きっといい日になりそうだ。

それでは、また明日。