【あの日からの地続き】

お墓参りで気づいた娘の小さな背丈の成長と、「誰よりも自分が一番動く」というリーダーシップの静かな誓い。あの愛おしく引き締まった朝の余韻を胸に抱いて迎えた今日は、楽団の大きな大会を前にした混乱や、家族の介護の決断など、いくつもの責任が一度に押し寄せる怒涛の一日となりました。

【日常の輪郭】

朝一番、スマートフォンの画面越しに飛び込んできたのは、来たる大きなコンクールに向けた楽団の運営トラブルの知らせでした。 会場への搬入手順の行き違いや、移動にかかる思いがけない追加費用の発生。本番を目前に控えて浮き足立つ周囲の様子に、私は深くため息をつきながらも、組織のあり方について静かに思いを巡らせていました。 「誰もが他責の逃げ道を探すんとちゃう。誰かが腹を括ってケツを持たなあかんのや」 まだ経験の浅い若い指揮者の苦悩する背中を思い浮かべながら、私は仲間に語りかけていました。 「あいつはな、一人で全部を背負えるほどの大木にはまだなれんのよ。周りに太くて頑丈な木がしっかり立って、そっと支えてやって初めて、あいつは自分の音楽を思い切り鳴らせるんやから」 自分自身がその太い支柱になってやろうという、静かで強い覚悟が胸の奥で固まっていました。

日中は本業の代表として、現場を支えるスタッフ数人分の健康診断の手配をテキパキと裁き、お役所の書類や現場の警備員の手配をスマートに処理していきました。 その傍らで、ずっと気にかかっていたのは、少しずつ物忘れが増えてきたおばあちゃんのことでした。病院へ行くのをどこかためらう家族の様子を見て、私は静かに一歩を踏み出しました。 「誰かが優しく背中を押してやらな、前には進まんよ。明日の朝、私が直接付き添って大きな病院へ連れて行くからな」 家族の暮らしを守るための具体的な段取りを整えていくと、胸のつかえがすっと下りていくようでした。

そんな重厚な責任の合間に、新しく仕掛ける移動販売のメニュー開発に思いを馳せる時間は、最高のリフレッシュでした。 「他の店と被るものは避けて、サクサクの揚げたこ焼きや、揚げたてのポテト、熱々のフランクフルトで勝負や。小さなCMを打って、『テレビに出た話題の店』として自分たちで面白く演出してやるのもええな」

そして夕方、何より私の心を温かく満たしたのは、長女が留守にしていた時間に訪れた、次女との二人きりの「小さなデート」の記憶でした。 近所のお店で買った冷たいおやつを手に、二人並んでベンチに腰掛ける。 「お姉ちゃんがいない間、パパとデートできて楽しかったな。静かに座ってお話を聞いてくれて、本当にすごかったぞ」 そう語りかけると、次女は誇らしげに胸を張り、眩しいほどの笑顔を返してくれました。手をつないで歩いた夕暮れの道のりの温もりが、一日のすべての疲れを優しく溶かしていきました。

激しい役割の波を一つずつ越えていくたび、私はいつものように自分という人間のフルネームを、まるで散らかった感情をピシッと整える句読点のように、心の中で静かに唱えていました。

楽団の迷走に警鐘を鳴らし、会社の段取りを冷徹に裁いている経営者。けれど同時に、若い指揮者の成長を温かく見守り、次女とのデートに目尻を下げている、ただの泥臭い父親。 心の中で唱えるマントラは、どれほど重い責任を背負った一日であっても、自分が帰るべき温かい愛の軸へといつでも引き戻してくれる、確かな確信のアンカーでした。

【その瞬間のきらめき】

未来の自分が人生の終盤にこのページをめくるとき、あの日どれほどコンクールの手配に頭を悩ませていたかとか、書類の手配がどうなったのかなんて、きっと小さな出来事として雲の彼方に消え去っているはずです。 覚えているのはきっと、「あいつを支える太い木になってやらな」と語り合ったあの言葉の重みと、次女と手をつないで歩いた小さなデートの、あの夕暮れの陽射しの温もりだけです。誰かのせいにして逃げるのではなく、自らが太い幹となって誰かを支え、愛する家族の手を引いて一歩を踏み出すこと。泥臭くても、それこそが私が選んできた誇り高き生き方なのだと、あの日の私が静かに教えてくれています。

【明日へのあしあと】

娘たちがすやすやと心地よい寝息を立てる我が家で、静まり返ったリビングに向かい、明日のささやかな段取りをノートに書き留めています。 おばあちゃんの受診に必要な書類と紹介状のメモをカチッと揃え、現場の車の手配に関する連絡をカバンへと収めました。

明日の朝一番には、おばあちゃんの手を優しく引いて病院へ向かう、家族のための大切な一歩が待っています。

温かい手をしっかり握りしめて進む明日は、きっといい日になりそうだ。

それでは、また明日。