【あの日からの地続き】

庭の草むらで震えていた雛鳥の小さな羽ばたきを長女とそっと見守り、「親鳥のようにつかず離れず見守ろう」と心に決めたあの夕暮れ。子どもの個性をそのまま愛おしむ穏やかな空気は、新しい週末の賑やかな朝へと滑らかに繋がっていました。

【日常の輪郭】

「今日はどうしても美味い肉が食べたい!」という強烈な本能に突き動かされ、私は朝からお気に入りの店を予約し、家族を連れて焼肉ランチへと繰り出しました。香ばしい煙と肉の焼ける音に包まれる至フクの時間。しかし、そんな悦楽の最中にも、私の手元では舗装工事の複雑な見積もり計算が走り、メッセージアプリを通じて的確な指示を飛ばすビジネスの現実が並走していました。

ふと手元の情報端末で、国が支援している芸術鑑賞の素晴らしい制度を見つけました。通常なら一生モノの思い出になるような高価なパフォーマンス公演の特等席が、子どもは無料、大人は半額で手に入るというのです。「よし、これで家族みんなで最高のステージを観に行けるな」と、また一つ未来の楽しみがカバンに加わりました。

そこから私の頭は、新しく仕掛ける移動販売のデザートのアイデアへと小気味よく飛び移っていきます。 「珈琲の層とカフェオレの層を美しく重ねて、その上におしゃれな白いクリームを乗せる。限定50個で、強気のワンコイン価格で売り出したら、絶対に一瞬で売り切れるぞ」 そんなクリエイティブな悪だくみを膨らませつつ、世界的なサッカー選手が家族のプライバシーを守るために自宅の周辺の土地を丸ごと買い占めたという桁違いの噂話に大笑いしたり、駐車場で車を斜めに停めると出る時に首を大きく振らなければならず危険だから、常に道に対して直角に頭を振れるように停めるのがプロの運転のコツだと仲間に熱弁したり。

若い頃は、そんな面倒な先人の知恵なんて聞かなくても力技でなんとかなってしまうもの。けれど、大人になって身体的な変化を感じ、首が回らなくなって初めて、年長者たちが残してくれた言葉の本当の重みに気づくのだと、しみじみと感じていました。かつて無人航空機を衝動買いした時のように、「いまや、まとまった買い物なら迷わず動かせるステージに来た。次はさらなる大金をも衝動で動かせるくらい、上を目指して事業を突き動かしてやろう」という野生の野心も、胸の奥で静かに脈打っています。

夜は一転して、熱気あふれる楽団の練習室の真ん中に立っていました。 肩に力が入ってガチガチになっている吹奏楽のメンバーたちに対し、私は優しくタクトを止め、アドバイスを送りました。 「いいか、もっと力を抜き。楽に吹いて、自然に音が前に出る方が、絶対にいい響きになるんやから」

楽器のケースを片付けながら、私はいつものように自分のフルネームを心の中でポツリと呟いていました。衝動買いのスケールを大きくしようと野心を燃やし、冷徹に見積もりを弾き出している強気な経営者。けれど同時に、メンバーに「力を抜け」と言いながら、自分自身もまた、家族との焼肉や音楽の響きの中で上手に息を抜こうとしている、ただの男。あの日の私の、満ち足りた体温がそこにありました。

【その瞬間のきらめき】

未来の私が人生の終盤にこのページをめくるとき、あの月にどれだけの利益を上げたかという数字の記憶なんて、きっと雲のように淡い記憶に変わっているはずです。 覚えているのはきっと、ジュージューと音を立てる肉を前にした子どもたちの歓声や、練習室でふっと力が抜けて美しい音が響いたあの瞬間の空気だけ。「できない理由」を真っ先に探して結局やらない退屈な生き方を捨て、常に強気で仕掛け続けること。そして、お金を持っても決して暮らしを派手にせず、先人の言う通り「質素で確かな日常」のなかに最高の価値を見出していくこと。それこそが人生を豊かにする最高のアンサンブルなのだと、あの日の私が静かに教えてくれています。

【明日へのあしあと】

夜の心地よい余興を終え、リビングのソファで明日の予定を確認しています。明日のイベントは「短パンはNG、長ズボンとスニーカー」という少しお堅いドレスコードが指定されているため、クローゼットの奥からお気に入りの一本を引き出しておく小さな段取りを済ませました。

楽に美しい音を響かせるコツを胸に抱いて進む明日は、きっといい日になりそうだ。

それでは、また明日。